大阪府指定無形民俗文化財に登録されている
池田の「がんがら火祭り」の始まりとなった物語りを
わかりやすくお話しにしました。
池田「がんがら火ものがたり」
今から四百年ほど前、江戸時代のお話です。
摂津の国、池田の水はとても澄んで美味しく、
お酒造りにはうってつけでした。
町には大小さまざまな酒蔵が建ち並び、活気にあふれていました。
ところが――。
大きな酒蔵はお殿様に取り入り、
江戸へとお酒を運ぶことを許されていました。
船や馬の背で揺られ、樽の香りが移った池田の酒は江戸で大人気。
飛ぶように売れたのです。
一方、小さな酒蔵の旦那たちは頭を抱えていました。
「このままでは商いが立ちゆかん……」
人通りも少ない池田では、せっかく造った酒も売れず、
旦那衆はお寺に集まっては愚痴をこぼし、互いに励まし合うばかり。
大きな蔵が羨ましくて仕方ありませんでした。
そんなある晩。
旦那衆がとぼとぼ帰る道すがら、
五月山の方でチラチラと光るものを見つけました。
よく見ると、松明を持った人々が山の中を歩いていたのです。
「危ないことをするやつもいるもんだ。山火事になったらどうする」
と口々に言い合っていると、一人が思い出したように話し始めました。
「そういえば……この前うちに来た山伏が言っていたんだが、京都の愛宕神社へお参りすると、火事から守ってくださるそうだ。だから、いま京の町では『愛宕参り』が大流行りだと……」
その言葉に、みんなの胸がざわめきました。
「もしや、あの火は愛宕火では?」
「いや……いっそ『五月山に愛宕の神様が降りた』と見せかけたらどうじゃ?」
最初は笑い飛ばしていた旦那衆も、だんだん真剣な顔になっていきました。
「京都までは行けぬ人々が、池田に押し寄せるかもしれん!」
こうして、小さな酒蔵の旦那たちは
一世一代の大勝負――町おこしの大企てを決意したのです。
準備は念入りに行われました。
山伏たちも仲間に引き入れ、成功すれば酒をたらふく振る舞うと約束しました。
そして、夏の澄み切った夜。
旦那衆は竹竿に薬箱をくくりつけ、油を注ぎ、火を灯しました。
ボウッと炎が立ち上がると、一斉に振り回します。
火の粉が舞い、赤い光が闇に揺れました。
山伏たちは町中を駆け回り、声を張り上げます。
「愛宕火じゃ! 愛宕の神が五月山に降りてこられたぞ!」
驚いた村人たちが空を見上げると、山にちらちらとゆらめく火。
「ほんまや! ありがたいことや!」
みな手を合わせ、拝みました。
やがて「五月山の愛宕様」の噂は遠くの町々にまで広がります。
京都まで行けない人々が池田に押し寄せ、
参拝の帰りには小さな酒蔵の酒を買い求めました。
おまけに炭や餅まで飛ぶように売れていきました。
こうして、小さな酒蔵の旦那衆の「どえらい町おこし」は大成功。
それが今日まで続く「がんがら火祭り」のはじまりだと言われています。
★個人的趣味で書いている童話です。
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