ある月のきれいな晩のこと、、☽
ココロくんはふとんにくるまって、静かに目をつぶっていましたが、、
なかなか寝付けずにいて、
夢と現実の間をゆらゆらと彷徨っていました。
するとどこからか声が――
「お?気付いたんじゃないか?」
「いや、まだわかってないで、大丈夫や」
「うん、でもそろそろ気づくころかな」
「もうすぐ庚申の夜だもの、会議を続けよう」
「いやー今回はいっぱい悪いことしよったな、コイツ」
ひそひそ声が、お腹のあたりから聞こえてくる。
「だれ……?」目を開けても、部屋には誰もいない。
でも、お腹がなんだかむずむずする。
ちょっと、いやぁーな雰囲気、気味が悪いや
次の晩も、またひそひそと話す声が聞こえた。
気にはなるし不気味だけど、眠気には勝てない、、、
またしても、現実と夢の間をふらふらと彷徨ってるうちに
いつのまに気づけばココロくんは夢の中へ
そして、その夢はなんと!
自分の体の中を旅する夢💤
そこは真っ暗な空間。
まるでピノキオじいさんが飲み込まれたクジラのお腹の中みたいだ。
プルプルした細い管をぬけてたどりついた先に小さな明り🔥
そこには、三匹の虫たちが頭を突き合わせて会議中だった。
そぉっと近づいていくと、、、
「あっ……!」虫たちは驚いた顔をしたあと、ニタッと笑った。
「これはこれはココロくんこんな所でお会いするとは、奇遇なことで、
わたしらね、ココロくんの体の中にいる三子の虫いいますねん」
そして自己紹介をはじめた。
ココロくんはあっけにとられるが
律儀に「あ、どうも」と挨拶を返した。
「じょうしいいます」
メガネをかけたまじめな虫。「頭に住んで、ウソやズルを覚えてる」
「ちゅうしいいます」
まるまる太った食いしんぼう。「お腹にいて、わがままを食べて大きくなる」
「げしいいまんねん」
ちょこまか動く元気な虫。「足元から行動を見てるよ。いたずらもバレてるぞ!」
「60日に一度の庚申の夜になったら、君のことを閻魔大王様に話しにいくんだ」
「ウソついたこととか、ひとのおもちゃこっそり取ったこととかね」
「今回もいろいろありましたなぁー女の子泣かしたりねぇ」
「えぇ!そんなの、やめてよ!」
ココロくんがそう言っても、虫たちは静かに首をふった。
「君がどう生きてるか、それが閻魔大王さまの知りたいことなんだよ。
わたしらの仕事は、ありのままのココロくんを報告するだけやしな」
じょうしがポンとメガネを押し上げながら言った。
「昔のひとは、こう言いました。”てんもうかいかい そにしてもらさず”。
大きな天のあみは、目があらいようで、実は何ひとつ見逃さないってことやね」
「え、それって…つまり……?」
「つまり、ココロくん。どんな小さなことでも、
閻魔大王さまはちゃんと見てはるってことや。
ウソもズルも、こっそりじゃ済まへんねんで〜」
ココロくんはゾッとした。
やっぱり見られてる、、やばいやばい、、
このままじゃ、いっぱい悪いことをしてるのが全部バレてしまう。
そんなの、こわくてたまらない。
世の中って、こんな仕組みになってたんだ。
それからココロくんは少しずつ心を入れ替え、変わっていった。
おばあちゃんの手伝いをしたり、
友だちに「ごめんね」って言ったり。
三匹の虫も、だんだんやさしい顔になって、
夜中のひそひそ声も明るくて、なんだか楽しそうになってきた。
そして、とうとうやってきた――庚申の夜。
世の中では、この夜に徹夜する人たちもいるらしい。
身体の中の悪い虫が閻魔大王さまに告げ口しに行かないように、
みんなで夜を明かして、虫たちを見張るのだという。
そう、眠らなければ体から出ることはできないのだ
そして、青面金剛がこの虫達を食べてくれることも知っていて
一晩中、一生懸命、青面金剛の助けを求めるのだ
でもこの晩、ココロくんは眠ってしまい
虫たちはそっと出ていった。
その前に、じょうしが言った。
「今日はあまり話すことがないね。ココロくん、よくがんばったよ」
そして虫たちは閻魔大王様のもとへ行き――
「この子は心を育てています」と、やさしく報告した。
閻魔大王様は静かにうなずいた。
「よく育った心には、長い命をあたえよう」
朝。ココロくんは目を覚ました。
「夢だったのかな?」
でも、お腹のむずむずは、どこかあたたかくて優しかった。
その日の朝ごはんは、いつもよりずっとおいしく感じられた。
三びきの虫は、いつも君の中にいる。
でもそれは、悪さをするためじゃない。
心を育てるためにいるんだよ。
庚申とは
干支の庚申(かのえさる)のことで60日に1回巡ってくる日です。
庚申の日の夜に人間の体の中にいる三尸の虫が
寝てる間に体から抜け出して
神様にその人間がした悪事を告げ口に行き、
神様はその人間の寿命を縮めてしまったり
地獄に落とされたりするのです。
人間が寝ないと三尸の虫は体から出ることができないので
庚申の夜は神様に告げ口をされないように
みんなで寄り集まって徹夜をしたそうです。
青面金剛は三尸の虫を食べてしまうので、
青面金剛を本尊として拝むようになって
庚申=青面金剛となったようです。
伏尾の庚申さん↓