むかしむかし、
池田のとあるお寺の山門に、一ぴきの龍がすんでおった。
その龍は、夜になると山門をおりて、寺の池まで水を飲みに行くのが日課やった。
「ごっくんごっくん、ぐびぐび」と音をたて、
ときには池の中へざぶんと入って、水あびまでしてしもうてな、
その音が、夜な夜な住職のねむりをさまたげていたんじゃ。
「これでは、わし、ねぶそくで修行にならん……!」
困りはてた住職は、ある日、ひとつの思いつきを口にした。
「よし……あの龍の“目”をぬりつぶしてしもうたら、池が見えなくなるやろ。
そしたら、もう夜に降りてくることもなくなるはずじゃ!」
それからしばらくして――
ある昼下がり、すやすや昼寝していた龍の目に、
住職はそっと白い染料をぬったんや。
ついでにからだじゅうも白くぬって、
まるでこの世におらん“見えないもの”みたいにしてしもうた。
それからというもの、龍はもう夜の池へは降りてこんようになった。
ひどいことをしたというのに、住職は村人にこう言うていた。
「龍さまは、いまも山門におって、村をまもってくださっておる」
ほんまに都合のいい考え、、、
龍はな、はじめのうちは目が見えんようになったことが悔しゅうて、
「こんどこそ住職に仕返ししてやる」と思うておった。
けれど、毎日毎日、村の人たちが
「ありがとう」と手を合わせにきたり、
お供えものを持ってきたりするのを見ているうちに――
「……こんな生き方も、悪うないな」と思うようになったんじゃ。
それから龍は、もう山門をおりることもなく、
しずかに山門の上から村を見まもる“守り神”になった。
ときどき、夜空を見上げて「また空を飛びたいな」と思うこともある。
けれど、あのころのことは――あのころのこと。
時々とんでくる揚羽蝶が村のことを教えてくれる
村人たちが龍のことを守り神だと大切に思ってくれてることや
龍にお願いしたらどんなことでも叶うと信じてること、、、
ちょっと誇らしい気持ちになる、、、
いまの暮らしも、わるうない。
風のなか、しろい龍は、眠りの中へ、、