かっぱどんの話
むかしむかしのことやで デンデン
いけだの まちに、おっきな古い池が ありましたとさ
その 池は、そこの そこが
ドロドロとふかく、まるで底なし沼、、、
池に入っていくと、二度とあがることはできない
ずんずん しずんでいってしまう――
世にもこわくて、おそろしい池でしたのさ
かっぱとか、妖怪とか住んでてもおかしくない
そんな池、、、
池の よこには、
ひとりでは とても かかえきれないくらい
おおきな枝を持つムクノキが にょきっと たっていて、
緑色にテカテカして、ちょっと猫背なかっぱが佇んでました。
といっても、人に逢ったら驚かれるので夜だけ佇みました。
その かっぱは、ビー玉のようなくりくりした目をしていて
時にはその目を閉じて
なにか懐かしい昔々の夢を見ているような
そんなちょっとスナフキンみたいなカッパでした。
でも、帽子はかぶりませんでした。
頭のお皿が何より大事だったからです。
ある日、子ども達が
池の そばで あそんでいたら――
その かっぱがひょいと あらわれたのです。
「はいこんにちは、たまには子ども達と交流もしないとね
こわくありませんよーへへへ」
「きゃー!かっぱだー!」
子ども達は おおさわぎ。
でも、かっぱは にげません。
作り笑いのような顔、ビー玉の目でへらへら笑いながら
子ども達を みつめているだけでした。
正直、どうしたらいいかわかりませんでした。
そのとき、ちかくで農作業をしていた五郎さんがとおりかかって、
かっぱを 見て、こういいました。
「ほう…これは かっぱとは珍しい、初めてみたぞ
うちに つれて かえってやろう、幸運がやってくるぞ」
そして そのまま、カッパを ひもでぐるぐる巻きにして
引っ張ってどこかへ いってしまったのです。
子ども達は おおきな きを みあげて、
ぽつりと つぶやきました。
「かっぱさん……かわいそう、泣いていたよね」
ところが――
しばらく すると、なんとなんとまた、
カッパは もとの池に
ひょっこり もどってきたのです。
「えっ!どうして!?」
でも、かっぱは なにも いわず、無表情。
また おおきな きの ねもとで
しずかに まどろんでいました。
それから すこしして――
かっぱを つれていった 五郎さんは、
雷に打たれて瀕死の重傷に!
しかもおへそまでとられてしまったのよ
まちのひとたちは、ささやきました。
「かっぱさまは……
この池の まもり神だったんやわ
きっとバチがあたったにちがいない」
それからというもの、
池の まもり神として、
かっぱは まちの ひとたちに
たいせつに されるように なりました。
池は、のうぎょうに なくてはならない
たいせつな ためいけ――
けれども そこには、
すこしの「おそれ」と、
おおきな「かんしゃ」が
そっと しずんでいるのです。
そして いまでも――
池の 水のそこには、
だれにも みえない まもり神が、
しずかに ひそんでいるのです。
――もしかしたら、いま、
あなたの すぐ うしろにも、
キラキラしたビー玉のきらめきが……?
おしまい。