創作落語『おんばのふところ』池田市に伝わる昔話

池田の町はええとこでな、まずお酒が美味しいしな
住んでる人達が暖かくて、どこか品がある。

さてさて
五月山のふもとの杉ケ谷川には「おんばのふところ」いう、
な〜んとも妖しげな名前の場所がありまして。

まぁ名前からして、
おんばがふところに何かヤバくてややこしそうなもん
隠してそうやろ?
そうゆうのんやないねんで

そのあたりを
走り回ってるのが
イノシシとかタヌキとか…
たまにウォンバットも出てくる。

しかも、なんでか人に慣れとる。
「どこから来たんや?」って聞いたら
「市役所のウォンバット課からや」言うとった。

で、この「おんばのふところ」でな、
冬になると**「稲荷せんぎょ」**っちゅう変わった行事がある。

赤飯のおにぎりに油揚げのせて、竹の皮に包んで――
「せんぎょ〜せんぎょ〜稲荷せんぎょ〜」言いながら
キツネのすみかに供えに歩く、

せんぎょせんぎょ言うてもな――
選挙とちゃいまっせ。
まぁ真夜中のキツネ接待やな
選挙では接待したらあきませんよ

今年その役を仰せつかったのが、うちの与太郎。
「大役やで」言うたら「わし、任せといて!」言うて、
赤飯を炊いてるそばから食うてるやないの。

「これちょっと味見や」「もう一個味見や」
で、30個炊いて2個しか残ってへん。

しかも、供えるはずの油揚げは――
「これ、おいなりさんにしてみました」
って、ぜんぶ自分で握って食うた後やないかい!

「そんなんで行けるか!」言うたら、
「…なら、これでどうや!」って出してきたんが――
チキンラーメンの袋。

「なんでやねん!」言うたら
「キツネって“おあげ”好きやろ? チキンも好きやん?」
「意味分からんけどまぁええ、ひよこちゃん可愛いし」

夜になって与太郎は「おんばのふところ」へ向けて出発。
手にはチキンラーメンひと袋。
しかも「お湯忘れた!」ってとりに帰って来よった

ところが次の日、近所で話題騒然。

「夜中に杉ケ谷川で、キツネがカップ麺にお湯注いでたで」

――誰が!? どうやって!? どこで湯沸かしてんねん!?

壁に耳あり障子に目ありやな
どこで誰が見とるかわからん、恐ろしい世の中ですわ

さらに次の年の「稲荷せんぎょ」、
くじびきで任されたんが…ウォンバット。

ハリキッた、もふっとしたウォンバット
あたまの上にカセットコンロ、背中にこぶりの鍋
「去年のキツネ、お湯ぬるいってガチギレやったんで…」
って準備万端。

お供えの品、赤飯・油揚げ・チキンラーメン・ゆで卵付き
ねぎも切っとこかー
呉春もわすれんと腰にぶらさげて
テチテチと歩いて杉ケ谷川に到着した。

で、キツネが出てきて、言うたのが――

「今年の“せんぎょ”、トッピングも充実しとるし、
 お湯の温度もちょうどええ。…
しかも今年は呉春まで!気がきいてるウォンバットやなー来年も頼むわ!」

「そやなー来年は猪鍋が食べたいなー」

――それを岩の向こうから聞いとったんが、
ちょろちょろしてたうり坊のウリちゃん

「く、くわれる……!!」って、
目ぇまんまるにして、バタバタバタァーッ!と
五月山のてっぺんまで一目散に逃げてしもた!

…で、そこで思ったんや。

「こんな…食うか食われるかの世の中はイヤや!!
せや、おいらが変えたらええんやっ!」

その晩、ウリ坊は家に帰るなり、
「せんきょー!せんきょー!せんぎょー!」言うてな、
なんか知らんけど人間に変身してもうてん。

スーツに身を包んだウリちゃん、
書類を片手に、選挙ポスター用の写真もばっちり決めて――

池田を、食われへん町に!」をスローガンに
ほんまに市議会議員に立候補。
愛宕神社の神様にお百度参りにいったんはうりちゃんの母、、

――そして、なぜか当選。

それからというもの、池田の市議会には一人だけ、
耳がちょっと丸くて、鼻先の黒い、
どう見てもウリちゃんやんって議員がおるらしい。

名前はいわれへん、ほんまやから
しましまの背広着てるからそれが目印やけどな
ここだけの話やで

今でも議会で熱く語っとるそうやで――
「せんぎょせんぎょ!…いや、選挙、やで!」

おあとがよろしいようで!

チーン!

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