創作落語『熊の恩返し』池田市に伝わるたぶん本当のお話

熊の恩返し

【まくら】

いや~最近はペットブームですなぁ。
犬に猫、インコにウーパールーパー、ウォンバット、アルパカ
なんでもござれ。
けどまぁ江戸時代のペット事情っちゅうのは、ちと違いましたな。

池田の町で一番の変わったペットが……クマでしてん

「クマがペットて、どんな家やねん!」思わはるでしょ。
けどこれがおそらくほんまの話でして……。

【本編】

時は嘉永六年、黒船来航の年ですわ
池田の町は今日ものんびりしておりまして。
そしたら突然!
川西の方から一匹の小熊が巡礼橋をふら~っと渡ってきたんですわ。

「うわっクマや!」
「ちっこいけどクマや!」
「いや、あれタヌキちゃうか?」
「いやいや、ウォンバットちゃうか?」
「いやいや、鼻ぺちゃすぎてクマや!」

そらもう町内は大騒ぎ。
祭りかていうくらい人が集まりましてな、
ちっこいクマは逃げに逃げて、とうとう逃げ込んだ先が――
醤油の老舗、雑喉屋太兵衛(ざこやたへえ)さんの蔵!

周りの人ら、「鉄砲持ってこい!」
「いや、棒のほうがええ!」て、物騒なこと言うてるんですが、
太兵衛はんが「ちょっと待たんかい!こやつ、わしの醤油飲んでへん!」

――そこかい!

仁王立ちになって熊をかばい、、、
「この熊、うちの先祖に顔立ちがなんとなく似ておる、、、」

で、結果、小熊は撃たれることなく檻に入れられまして。
「しゃあない、飼うか」言うて、
そこから奇妙な熊との同居生活が始まったんですな。

朝は一緒に味噌汁すすって、
夜は囲炉裏でごろ寝。
お正月は羽根つき、熊は羽根をバチーン!て熊手でな。
ご近所からは「太兵衛んとこのクマ、ええツヤしてんなぁ」なんて声まで。

7年も一緒におりまして、もうクマというより、
毛深い弟みたいな存在ですわ。

ところがある年、太兵衛はんが寝込んでしもうて。

「もうあかん……」言うて、町の衆もしんみり。
そしたらクマも同じく、ゴホゴホ言い出して……
あれよあれよと、先にクマがあの世へ行ってもうた。

ほんでからというもの、太兵衛はんの病がスーッと引いていって、
医者もびっくり、「なんや知らんけど治ったで!」

「これはクマが命をかえてくれたんや!」と、涙ながらにお墓を建てた。

「熊塚」――今でも池田にあるんです。

【おち】

その話を聞いた若いもんが言いましたわ。

「そんなええ話なら、クマの墓、観光名所にしたらええんちゃいます?」

太兵衛はん、首ふりながら一言。
「そらあかん、クマの恩を商売にしたら……

 恩を売ることになるやろ?」

――いや、うまいこと言いよったけど、”しょうゆう”ことやな
ちょっとクマってまうわ!

池田市の弘誓時に今もある熊塚


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