創作落語『ひじねぎ日和』
え〜、近ごろどうも風邪やら花粉やらにまじりまして、
ちょっと変わった流行がありましてな。
何が流行ってるかと言いますと……ネギが、流行ってるんですわ。
いや、食べるんちゃいますよ。
生えるんです、自分の身体から。
わたしもある日、ふと腕まくりしましたら、
ひじの内側に……ネギ、一本!どーん!
しかも太い。九条ネギか!っていうくらい立派なやつがにゅうっと生えておりまして。
「これは一大事や!」と思って、
彼氏に相談しましたら、なんと彼も
「実は僕もなんだよ」って、
ざわわざわわ…… 揺れる細ネギ三本、披露してきよりましてね。
「えらい器用に生えとるな〜」なんて言うてたら、
どうやら街中でも、脇ネギとかひざネギとか、
バリエーション豊かな人々が出てきとるようでして。
で、これは放っとくと良くないということで、
紹介された病院へふたりで行ってみたら、
出てきた先生が……割烹着姿のおばあちゃん。
おばあちゃん先生、手に持ってるのがまたすごい。
巨大なにぎりバサミ!
お花の剪定か、はたまた竹を切る勢いで「はい、ジョキンといきましょか〜」と。
私はというと、
ネギ触るとなんか、ビリビリッと神経が通ってる気がして…
「いや〜ちょっと怖いなぁ」なんて言うてるうちに、
彼氏はもう、
「はい三本切りました〜」って
新聞紙に包んでもらって持ち帰り。
「これ、味噌汁に入れると美味しいんやで〜」って、
なんでそんな笑顔やねん。
で、私の番。
おばあちゃん先生、ちゃちゃっと根元を紐で縛って、
「はい、いきまっせ〜ジョキン!」
……あれ、思ったより痛くない。
でもね、
そのネギを見てたら、なんか味噌汁にする気分になれんのですわ。
太くて、重くて、なんか……ちょっと寂しい。
……というわけで、
ネギの流行には気をつけて。
切るときは新聞紙と、あとちょっとの勇気を、お忘れなく。